[1]はじめに
最近は自転車のサイクリングパワーを計測しながら、一定のパワーで走行するマイペース走法が注目されている[1]。しかしながら、私はバーチャルライドはサイクルトレーナーがパワー計測しているものの、実走行の自転車ではパワーメータが無いためパワーを計測出来ず、今ひとつサイクリングパワーが分からなかった。
そこで今回、もう少し深くサイクリングパワーを理解するため、モデル計算の手法を用いて踏力とケイデンスとの関係を定量的に検討したので報告する。
本記事は長文のため、お急ぎの読者、または数式が嫌いな読者は以下の目次を利用して[4-2]以降をお読みください。
[2]理想モデル
まず最初に検討した理想モデルを以下に示す。
理想モデルの仮定
右ペダルと左ペダルに、時間的に一定な力が加わっており、それらの力の合計はFe(N)である。
理想モデルでは、仕事量の公式により力Fe(N)を加えてD(m)移動した場合の必要な運動エネルギーW(J)は、以下の(1)式で表される。
W=Fe・D------------------------(1)
移動に要する時間をT(sec)とし、(1)式の両辺をTで割ると下式を得る。
W/T=Fe・(D/T)
上式のW/TはパワーP(W)、D/Tは速度V(m/sec)であるため、(2)式を得る。
P=Fe・V-------------------------(2)
P:パワー(W)
Fe:踏力(N)
V:ペダルの移動速度(m/sec)
(2)式は参考文献[2]にも紹介されているパワーPを表す式である。しかし(2)式はケイデンスとの関係が明確ではない。そこで移動速度VとケイデンスCの関係を検討するため、以下のペダル回転の模式図を用いる。

上の模式図で、ペダルの移動速度V(m/sec)およびケイデンスC(rpm)は、それぞれ以下の(3)(4)式で表される。
V=A・ω------------------------(3)
ω=2πC/60---------------------(4)
π:円周率(≒3.14)
(2)式に(3)(4)式を代入すると、以下の(5)式を得る。
P=(πA/30)・Fe・C------------(5)
(5)式は、パワーについてよく知られていること[3]を示唆している。すなわち、大きなパワーを出力するには、踏力Feを大きくするか、または高いケイデンスCとするかの2つの方法があることを示している。
[3]通常ライドモデル
理想モデルでは、ペダルに加える力が時間的に一定であると仮定した。しかしこの仮定は電動モーターならば可能だが、人間が常にペダルを一定の力でこぐことは現実的に不可能だ。
この通常ライドモデルでは、通常の人間のライドを想定して、時計回りに回るペダルが0時から3時の間にある時のみ、人間が一定踏力Fp(kg)で踏むと仮定する。実際は右ペダルと左ペダルがあるため、下図のダイヤグラムで、赤で示すタイミングでのみ、踏力Fp(kg)がペダルに加わると仮定する。
踏力Fpのダイヤグラム (通常ライドモデル)

上図で明らかなように、通常ライドモデルでは、踏力Fpがペダルに加わるのはAとCのタイミングのみで、BとDのタイミングは踏力ゼロとなる。
そこで、踏力を全タイミングで平均化すると、等価的にFpの半分が全てのタイミングで加わっていると見なすことができる。その結果、以下の(6)式を得る。
Fe=g・(Fp/2)----------------------(6)
g:重力の加速度(9.8m/s2)
(6)式でFpに重力の加速度を乗ずるのは、Feの単位がニュートン(N)に対して、Fpの単位がkgのため、その換算係数として重力加速度gを乗じている。
(6)式を(5)式に代入すると、以下の(7)式を得る。
P=(π・A・g/60)・Fp・C---------(7)
(7)式で、クランク長Aを175mm(=0.175m)と仮定すると、以下の(8)式を得る。
P=0.09・Fp・C-------------------(8)
(8)式を用いた計算結果を以下[3-2]に示す。
[3-2]通常ライドモデルの計算結果
踏力FpとパワーPの関係
(通常ライド)

P一定の場合の、ケイデンスCと踏力Fpの反比例関係
(通常ライド)

[4]引き足ライドモデル
次に引き足について検討する。引き足は、やった方が良いという説[4][5]とやらない方が良いという説[6]の両論あるが、ここでは引き足ライドをモデル計算の手法を用いて定量的に検討する。
今回の引き足ライドモデルでは、下図のダイヤグラムに示す様に、下向きの踏力Fpが加わるタイミングAとCに加えて、タイミングBとDにおいて上向きの力Fpでペダルを引き上げると仮定する。
踏力Fpのダイヤグラム (引き足ライドモデル)

上図で分かるように、引き足ライドモデルでは、どのタイミングでも力Fpがペダルに加わるため、等価的にFpが全てのタイミングで加わっていると見なすことができる。したがって、以下の(9)式を得る。
Fe=g・Fp---------------------------(9)
g:重力の加速度(9.8m/s2)
(9)式を(5)式に代入すると、以下の(10)式を得る。
P=(π・A・g/30)・Fp・C----------(10)
(10)式でクランク長Aを175mm(=0.175m)と仮定すると、以下の(11)式を得る。
P=0.18・Fp・C--------------------(11)
(8)式と(11)式を比較すると、FpとCが同一ならば、引き足ライドのパワーは、通常ライドの2倍となる。しかし実際には、通常ライドと同一の力Fpでペダルを引き上げることは難しいため、2倍にはならないと思われる。
(8)式と(11)式を用いて、通常ライドと引き足ライドをそれぞれ計算した結果を以下の[4-2]に示す。
[4-2]計算結果-通常ライドvs引き足ライド
踏力FpとパワーPの関係
(通常ライドvs引き足ライド)

P一定の場合の、ケイデンスCと踏力Fpの反比例関係
(通常ライドvs引き足ライド)

[5]事例分析
ここでは、私の最近のZWIFTライド事例を分析した結果について紹介する。
以下の2つのダイヤグラムは、私が2026/6/10にZWIFTのWatopia Coast to Coastを走った事例のゴール前スプリントのデータだ。最初のダイヤグラムは、ゴール手前200mの通常ライドのデータで、2番目のダイヤグラムは、ゴール直前の引き足ライドでのデータで、その下方に、それらの数値データをまとめた表を示している。
ゴール200m手前でのデータ
(通常ライド、D=23.9km、P=232W、C=73rpm)

ゴール直前データ
(D=24.1km、引き足ライド、P=366W、C=88rpm)

事例分析のデータまとめ

上表において、パワーPとケイデンスCは、サイクルトレーナーが計測した実測値を示しているが、力Fpは、通常ライドは(8)式、引き足ライドは(11)式を用いた計算値を示している。
引き足ライドではパワーが232Wから366Wに約1.6倍に増強されている。この1.6倍の増強は、理論上引き足ライドの効果が2倍あるが、力Fpが0.65倍(35kg→23kg)に低下し、一方ケイデンスCが1.2倍(73rpm→88rpm)に増強した結果、全体として1.6倍となったことが分かった。
P(引き足ライド)/P(通常ライド)=2×0.65×1.2≒1.6
このように、引き足ライドはパワーは2倍にはならないものの、1.6倍に増強されたため、パワー増強に一定の効果があると思われる。
通常ライド⇒引き足ライド移行時の力FpとケイデンスCの変化

[6]まとめ
(1)今回のモデル計算による検討の結果、以下の関係式が得られた。
通常ライドのパワーP(W)とケイデンスC(rpm)と力Fp(kg)の関係
P=(π・A・g/60)・Fp・C
π:円周率(≒3.14)
A:クランク長(m)
g:重力の加速度(9.8m/s2)
A(クランク長)=175mmの場合
P=0.09・Fp・C
引き足ライドのパワーP(W)とケイデンスC(rpm)と力Fp(kg)の関係
P=(π・A・g/30)・Fp・C
π:円周率(≒3.14)
A:クランク長(m)
g:重力の加速度(9.8m/s2)
A(クランク長)=175mmの場合
P=0.18・Fp・C
(2)私の引き足ライドと通常ライドの走行事例を分析した結果、引き足ライドの場合の力Fpがやや低下するため、パワー2倍にはならないものの、パワー増強には一定の効果があることが分かった。
参考文献
[1]20266/4/18 ACTIVEBIKE HP「ヒルクライムを制するペーシング戦略」
[2]2023/12/25 SRM POWER SHOP HP「パワーって何? part 1 SFRから理解する力と速度の関係」
[3]2018/6/16 シクロワイヤード「竹谷賢二先生が教える「パワー」とは? トレーニングを充実させるパワトレをイチから学ぼう」
[5]2020/2/22 もりのくま3「ヒルクライムでの激坂を克服する裏技が「引き足」!?」
[6]2018/4/12 アイアンマン報告「フラットペダルの再評価。引き足不要論とビンディング・コスプレ説」
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