マイペースチャリダーが行く

アラ古稀の理系チャリダーが自転車の科学、サイクリングを綴る

「自転車の車輪の転がり抵抗について-1」はこちら

荒れた路面の転がり抵抗(修正版) -モデル計算-

 荒れたアスファルト道路を自転車で走行した場合、速度キープのために追加パワーが必要となり、転がり抵抗が増大したように感ずることがある。
 転がり抵抗については、当ブログで2020年2月に検討結果について紹介したが、この検討は完全平坦面を前提としていた。[1][2][3]

 ところが、実際に我々が走る道路は、必ずしも平坦ではなく、荒れた路面も多い。そのため、路面が荒れている場合の転がり抵抗が、どうなるのかはチャリダーの私にとっては大きな関心事だ。

 先行の検討事例を検索すると、タイヤ空気圧の最適化という観点での検討事例が多いが、私が調べた限り、過去の計算事例は見当たらない。[4][5][6]
 そこで今回の記事では、計算しやすい仮定をおいたモデル計算を用いて、荒れた路面での転がり抵抗係数を検討したので、報告する。

 

(1)荒れた路面の走行モデル

 下図のように、段差Z(m)が間隔L(m)の等間隔で並んだ路面を仮定する。その上をタイヤが定速走行する場合、段差の影響で、バイクがεZ(m)の振幅で上下に振動すると仮定する。ここでε(0<ε<1)はタイヤの柔軟性に依存する係数で、段差伝達係数と呼ぶことにする。実際の自転車ではタイヤが2つあるが、これらのタイヤは同期して上下振動するものと仮定する。

 ただし、段差によりバイクは振動するが、ライダーは足関節やサドルで振動が遮断されるため、振動しないと仮定する。

 

等間隔の段差のある路面を走行するタイヤの模式図

 


(2)等価的な転がり抵抗係数Crreの検討

 今回の走行モデルは、等間隔で並んだ段差Z(m)のために、バイクが振幅εZ(m)で上下振動しながら走行すると仮定した。

 このような段差のある路面における等価的な転がり抵抗係数をCrreとする。一方、段差がない平坦面の転がり抵抗係数をCrrとする。

 本節では、CrreとCrrの関係式を求めることを目標とする。

 

段差走行中のバイクの動き

 上図は段差走行中のバイクの上下振動を示している。P1、P2、P3各点での速度を各々V1、V2、V3とする。またバイクのライダーを含めた総質量をmt、バイクのみの質量をmbとする。

 下降領域でバイクは振幅εZだけ下降することにより、位置エネルギーmbgεZが運動エネルギーに変換されて下方に加速する。P2点でその得られた運動エネルギーはタイヤの反発力で上方向の運動エネルギーに変換される。この状況を考慮すると、以下の(1)式が得られる。

 (1)式右辺の第2項目は、下降領域で得られた位置エネルギーmbgεZから変換された運動エネルギーがP2点でタイヤの反発力で上方向へ方向転換した運動エネルギーを示す。第2項目の質量をバイク質量mbとしたのは、前述したように荒れた路面の走行によりバイクは振動しても、ライダー(人体)は振動しないと仮定したためである。この仮定は、私が実際に荒れた路面走行中においても、人体自身が振動する感覚がなく、足関節やサドルのクッションによってバイクの振動が遮断されている認識に基づく。自動車に例えれば、バイクがばね下重量で、ライダーが車体という考え方である。

 eは反発係数で、e=1ならば下降領域で得られた位置エネルギー全部が上方向の運動エネルギーに変換されることになる。しかしながら、弾性力に優れたタイヤでも反発係数は0.9程度と推定されるため、得られた位置エネルギーの一部が運動エネルギーに変換されることになる。

 第3項目は段差が無い平坦面の転がり抵抗によるエネルギー損失、第4項目は定速走行するためにペダルから投入するエネルギーを表しており、段差がない場合(Z=0)は、Crr=Crreで定速走行となる。

 一方、上昇領域の運動エネルギーの関係は、以下の(2)式で表される。

 (2)式右辺の第2項目は、上昇領域で運動エネルギーが位置エネルギーに変換されることによるエネルギー損失を表す。(1)式同様に、位置エネルギーの場合の質量はバイクのみの質量mbであることに留意する必要がある。

 第3項目は転がり抵抗によるエネルギー損失、第4項目は定速走行のためにペダルから投入するエネルギーであり、段差がない場合(Z=0)にはCrr=Crreで定速走行となる。

 (1)式を(2)式に代入することによりV2を消去すると、

 (3)式において、定速走行なのでV1=V3とすると、

 (4)式は、段差がある路面の等価転がり抵抗係数Crreと、平坦面の転がり抵抗係数Crrの関係を示している。反発係数が1の場合には、Crre=Crrとなるが、通常e<1であるため、CrreはCrrよりも大きくなることが分かる。

 

(3)等価転がり抵抗係数Crreの数値計算

 前節(4)式を用いて計算した等価転がり抵抗係数Crreの数値例を下表に示す。平坦面の転がり抵抗係数Crrの値は、現在私が使用しているコンチネンタル製GP5000タイヤ700x25cの転がり抵抗パワーPrの実測値を参考にしてCrr=0.003(空気圧120psi)と仮定した。[7]

  下表で、段差6mmでバイクの振幅εZが1.2mmの場合、等価転がり抵抗係数Crreは、平坦面の転がり抵抗係数Crrの2.1倍になることが分かる。この結果から、小さな段差でも、等価転がり抵抗係数Crreはかなり増大することが分かった。

 

等価転がり抵抗係数Crreの数値例

 

(4)パワーと速度の関係

  前節で求めた等価転がり抵抗係数Crreの計算例のうち、いくつかの条件(Z=0,3,6,10mm)を取り上げて、転がり抵抗パワーPrを計算しよう。転がり抵抗パワーPrと等価転がり抵抗係数Crreの関係式は、以下の(5)式となる。[8]

 (5)式を用いて、段差(Z=0,3,6,10mm)がある場合の転がり抵抗パワーPrの計算事例を下図に示す。段差にほぼ比例して転がり抵抗パワーPrは2-3倍に増大している。

 このように段差で転がり抵抗が増大することを考慮すると、参考文献[4][5][6]にあるように、段差が多い路面では、タイヤ空気圧を下げることにより、タイヤの柔軟性を上げて、段差伝達係数εを下げることは、転がり抵抗低減に有効と考える。

 

転がり抵抗パワーPrと速度の関係



(5)まとめ
 今回は、荒れた路面に対する等価転がり抵抗係数Crreに関して、モデル計算により、関係式を導出し、また具体的に数値計算した。今回のまとめを以下に示す。

 

1)段差のある面の等価転がり抵抗係数Crreと、平坦面転がり抵抗係数Crrの関係は、以下(4)式で表される。

  e=タイヤの反発係数(0<e<1)

  ε=段差伝達係数(0<ε<1)

  Z=段差(m)、L=段差間隔(m)

  mb=バイク質量(kg)、mt=総質量(kg)

2)段差路面において、バイクの振動振幅εZが1.2mmの場合、等価転がり抵抗係数は2.1倍になる。

3)段差のある路面に対して、参考文献[4][5][6]で指摘されているようにタイヤ空気圧を下げることは、段差伝達係数εを下げることになり、結果的に等価転がり抵抗係数を低減するため、転がり抵抗の低減に有効と考える。

 


参考文献

[1]2020/2/13 当ブログ「何故自転車は速いのか? 自転車の車輪の転がり抵抗について-1」

[2]2020/2/23 当ブログ「何故自転車は速いのか? 自転車の車輪の転がり抵抗について-2」

[3]2020/2/26 当ブログ「自転車の転がり抵抗の補足 -反発係数と力の関係-」

[4]2021/9/15 Silica Marginal Gains Blog "Part 4B: Rolling Resistance and Impedance"

[5]2024/2/28 IT技術者ロードバイク日記「【なぜ?】タイヤ空気圧を上げ過ぎると、転がり抵抗が増す【実験結果あり】」

[6]2024/7/15 Take Action「ロードバイク 適切な空気圧は?」

[7]2019/2/19 Bicycle Rolling Resistance "Continental Grand Prix 5000 Comparison: 23, 25, 28, and 32 mm Compared"

[8]2023/8/4 当ブログ「何故、ヒルクライムは小柄、スプリントはマッチョか?」(7)式を参照 

 

修正履歴

2024/8/13 0:43 初版リリース

2024/8/13 23:39 修正版リリース

 初版では、段差によりバイクと人体が一体で振動すると仮定したが、段差による細かなバイク振動は人体に伝わらず、振動が足関節やサドルで遮断されていることに気づいた。

 そのため、修正版では、段差により振動するのはバイクのみに限定して、振動により変動する位置エネルギーの質量はバイク質量mbを用いて、一方、全体の運動エネルギーや転がり抵抗で用いる質量は総質量mtを用いることにして、関係式を見直して修正した。

2024/8/14 10:22 以下の軽微な修正

 グラフ「転がり抵抗パワーPrと速度の関係」の前提条件において、修正(m→mt)。