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何故自転車は速いのか? 自転車の車輪の転がり抵抗について-1

 自転車好きの理工系としては、「何故、自転車は速いのか」という素朴な疑問をずっと持っていた。定性的には、人間の出すパワーを運動エネルギーへ変換する効率がすこぶる良いことに尽きると思う。変換効率を左右する要因として、車輪の転がり抵抗と、ペダルからギヤ・チェーンによる伝達ロスなどがあるが、個人的に、前者の「車輪の転がり抵抗」について以前から興味があったので、定量的に検討してみた。


 転がり抵抗を検討するに当たっては、WEB公開されている文献[1]を勉強した。これは、大変参考になった。特に、車輪のある点を中心にしたモーメントのバランスで解くという手法が、力学から遠ざかっている私は到底思いつかない方法だ。しかしながら、文献[1]の結論(Crr=e/R)に、自転車の実際の数字(R≒350mm、e≒50mm)を当てはめて転がり抵抗係数Crrを計算すると、通常の測定値(3~5×10-3)よりもかなり大きくなってしまう。何かおかしい。

 そこで、今回の検討では、自転車のタイヤの弾性を取り込んで検討することとした。前進している自転車のタイヤの路面との接触面では、常に圧縮と膨張を繰り返している。もう少し具体的に言うと、接触面の前方半分は、自転車の荷重でタイヤが圧縮されるだけで回転に寄与しない抵抗領域となっている。一方の後方半分は、タイヤが反発して膨張することにより、回転をより増強する領域となっている。このような状況は文献[2]でも定性的に説明されている。今回は、それを定量的に検討するため、用いた車輪モデルを以下に示す。


 上図で、接触面の中心点を点Pとし、接触面の面積をS、その長さをLとする。また、前方半分の赤色で示した領域の中心は、点PからL/4離れており、ここでタイヤを圧縮する力に対する抗力が平均圧力密度N1で上向きに発生していると仮定する。一方、後方半分の青色で示した領域の中心は点PからL/4離れており、ここではタイヤの反発力により路面を押し下げる力に対する抗力が平均圧力密度N2で上向きに加わっていると仮定する。


 (2)式において、もしもタイヤが完全弾性体であればN1=N2、F=0となり、ニュートン力学の第1法則(慣性の法則)が成立する理想状況になる。しかし実際には、タイヤの非弾性によりN2はN1よりもやや小さくなる。そのため、係数e(0<e<1)を用いて、N2=eN1と仮定する。  ※係数eは近似的に反発係数として良いが、それについては別記事で説明したい。


 (6)式により、Lが小さいほど転がり抵抗係数が小さくなることが分かる。チャリダーとしては、転がり抵抗係数が実際にどの程度の数値になるのか、興味のあるところだ。実際のLは文献[2]を参考にして、700×23cのLを100mm、700×25cのLを95mmと仮定し、またR=350mm、反発係数e=0.9として、転がり抵抗係数Crrを計算してみた。


 計算されたCrrは、もっともらしい10-3台の数値だ。23cと25cを比較すると、25cの方が転がり抵抗係数が5%程度小さくなるという結果になった。これから類推すると、もしも23cや25cと同程度の空気圧力に耐えられる28cタイヤがあれば、その方がよりLが小さくなるため、転がり抵抗係数がさらに5%程度低くなる可能性がある。

 次回は、転がり抵抗係数とパワーロスの関係について検討する。

 

参考文献

[1]YouTube動画 金野祥久 工業力学及び演習「転がり抵抗(摩擦)」

[2]ローロバイシクルズHP「太いタイヤの方がエネルギーロスを軽減できるって本当︖︖」